聖霊降臨後第6主日 説教

2022年7月17日(日)聖霊降臨後第6(特定11)主日 創世記18:1-10b; コロサ1:21-29; ルカ10:38-42

マルタとマリア。この二人の姉妹は、聖書の中に出てくる女性たちの中で、イエスの母マリアに次いで有名な女性ではないでしょうか。

例えば、それなりに長く教会生活をしていても、「バプテスマのヨハネのお母さんの名前は?」と言われても、ピンと来ない人は結構いると思います。しかし、エリサベトの名前は思い出せなくても、マルタとマリアの名前を聞いてピンと来ない人は少ないでしょう。

「マルタ、マルタ、あなたはいろいろなことに気を遣い、思い煩っている。42 しかし、必要なことは一つだけである。マリアは良いほうを選んだ。それを取り上げてはならない。」非常に有名なセリフですが、イエス様がマルタに向かってこれを言ったことはないと、私は思っています。

どんなに強調してもし過ぎることはないことですが、イエス様は、食事を用意し、給仕してくれた女性たちの働きから学び、彼女たちの働きの中に、神の国の究極の価値を見出しました。イエス様は、ご自分が生み出す新しいコミュニティーを、自分の宣教の働きを支えてくれた女性たちの業の上に立て、全てのメンバーが、女性たちに倣うことを求めました。

イエス様が語る神の国は、コミュニティーのすべてのメンバーが、喜んで食事を用意し、給仕することで支えられ、成長する共同体です。そして、そのような共同体の中にしか、本当の平和は生まれないと、イエス様は知っていました。

イエス様がその到来を告げ知らせた神の国は、マルタの上に、母性ではなくて、彼女の働きの上に建てられるものです。ですから、給仕に徹するマルタよりも、イエス様の足元で話を聞くマリアをイエス様が褒めるというのは、ありそうにない話です。

しかし、「ルカ」には、自分が属しているコミュニティーに向かって、「一生懸命働くだけでなく、主の言葉から学ばねばならない」と語るべき理由があったはずです。

40節に、「マルタは、いろいろともてなしのために忙しくしていた」とありますが、ギリシア語から直訳すると、「マルタは多くの給仕の働きのために、あちらへ、こちらへと引き回されていた」となります。これは、「心が乱れて、なぜ、何のために、こんなことをしているのか分からない。」そういう状態を表しています。

きっと「ルカ」には、共同体の行っている様々なことが意味を失ってしまったり、イエス・キリストの教えから離れていくことへの危惧があったのでしょう。

教会のしていることが、イエス・キリストの教えに適うものかどうか識別するためには、まず、イエス様の言葉に聞かなくてはならない。そう言うために、ルカはこのエピソードを書いたのではないでしょうか。ちなみにマルタとマリアのこのお話は、ルカ福音書にしかありません。

マルタとマリアという二人の女性は、二人の人ではなく、むしろ教会という一つの共同体には、二つの側面が常に、同時に、共存していなければならないことを表しているのだと私は思います。それは受動性と能動性です。活動することと、イエス・キリストに聴き、主から学ぶことです。

マルタとマリアのエピソードは、教会生活の何気ない会話の中で、最も頻繁に登場する聖書の物語の一つです。「私はマルタです」という言葉を耳にすることもよくあります。どうも「私はマルタです」という言葉は、「私は聖書の勉強が嫌いです」という隠語として使われているフシもあるようです。

私はこれまで、「私はマルタとマリアのマリアです」という方に、一度もお目にかかったことがありません。実は、マルタとマリアのエピソードは、「聖書の勉強はしたくないけれど、体は動かします」という人たちに対する、警告だ、そう言えなくもありません。

イエス様がマルタの働きの上に打ち立てようとした神の国という共同体は、ローマ帝国に対するオルタナティブです。ローマは、皇帝崇拝カルトという土台の上に据えられ、ローマ軍の軍事力によって、暴力と脅迫によって維持される支配体制です。

それに対して、神の国は、私たちのために命を与えた主、イエス・キリストという土台の上に建てられ、そこに属するすべての人が、食事を整え、給仕する者として仕えることによって支えられ、成長する共同体です。

そのような、世に在って世に属さない共同体を生み出す働きは、「主に聴く」こと無しには起こりません。イエス様に聴き、この世の国の作り方と、神の国の作り方がいかに違うのかを学ばなければ、私たちは気付かぬうちに、この世の道を模倣するようになります。そしてこの世の国の作り方を、教会の中に取り込もうとします。

先の参議院選挙で、政権与党は地滑り的勝利を収め、改憲勢力が2/3を超えました。これによって、憲法改正の動きは加速することでしょう。しかし、安倍元首相の殺害を機に、日本政治の闇に光が当たることになりました。自民党と統一教会との関係です。

自民党が統一教会とベッタリの関係であることは、公然の秘密であり、日本の政治について語ろうとするなら、当然知っているべき「常識」です。しかし、この公然の秘密が、大手マスコミで取り上げられることは、ほとんどありません。

統一教会は文鮮明(ムン・ソンミョン)を教祖として韓国で生まれた、極右民族主義/国粋主義カルトですが、その政治的アジェンダを実現するための、勝共連合という政治団体を持っています。

1959年に統一教会が日本で設立されたとき、その本部は安倍元首相の母方の祖父、岸信介(のぶすけ)の自宅敷地内に設立されました。岸は度々教会を訪れ、講演もしています。更に、岸は統一教会の政治部門である勝共連合のトップを務めていました。このことは、機密解除になって公開されている、FBIの文書にもハッキリと記されています。

1993年に出版された統一教会教祖の発言集には、13議席しかなかった安倍派を、88人の派閥にするために教育して育てこと、自民党の分科委員長と議員の約180名が統一教会との関係を持つ議員であることも書かれています。また、統一教会は、現在に至るまで、秘書をはじめ、選挙運動を支える活動員を自民党議員に無償で提供してきました。

安保法案成立後、SEALDsという学生団体が、全国で大規模な反安倍・反安保法案を掲げるデモを展開しました。これを受けて、統一教会は信者の若者を集めて、UNITEという学生組織を立ち上げます。「安保法制賛成」、「憲法改正支持」、「安倍政権支持」を掲げてこの組織が展開したデモ参加者は、ほとんど全て、統一教会のメンバーでした。

皆さんの中にはご存じの方も多いと思いますが、1980年代には統一教会の霊感商法が大きな社会問題となりました。

1980年代、日本から統一教会本部に、月に80億から100億が送金され、本部会計の8割が、日本から集められたお金で占められていたといいます。1987年5月に、霊感商法の被害者救済と霊感商法そのものの根絶を求めて、約300名の弁護士が「全国霊感商法対策弁護士連絡会」を立ち上げます。そうした状況になっても、政治によって守られてきたのは被害者でも市民でもなく、統一教会でした。

昨年、統一教会の大規模イヴェントに、ビデオレターという形で安倍元首相が登場し、統一教会の幹部や関係者に向けて、「敬意を表します」との発言をしています。

全国霊感商法対策弁護士連絡会は、「反社会的な団体に『お墨付き』を与え」、「今後日本社会に深刻な悪影響をもたらす」との抗議文を送ります。ところが、安倍元首相の事務所は、この抗議文の受け取りそのものを拒否しました。

すでにピンときている方もおられるかもしれませんが、統一教会は、日本会議、神社本庁、神道議員連盟といった他の極右民族主義/国粋主義団体とも、密接に繋がっています。

日本の政治の裏舞台を、そこには常にアメリカが背後に隠れているわけですが、少しでも真面目に覗いてみれば、1950年代以降の日本は、民族主義/国粋主義カルトのメンバーと、その支持者によって支配され続けてきたことがわかります。

そして、今回の地滑り的勝利によって改憲の動きを加速し、軍事大国化を目指す政権も、敢えて言いますが、カルト政権です。ローマの皇帝崇拝カルトがそうであるように、民族主義/国粋主義カルトは、その提唱者たち自身が力を持つための手段です。

カルトは常に、群衆を騙し、扇動し、自分たちの意に沿うように群衆を操作することによって、自分たちが力を握る体制を作り上げようとします。カルト政権が目指す軍事大国と、マルタの働きの上に、食事を用意し、給仕することによって支えられ成長する神の国の間を結びつけるものは、何もありません。

私たちは再び、戦争の足音が聞こえる危険な夏を迎えています。

聖マーガレット教会が、私たちが、マリアのように主の声を聴くことによって、世の流れに争い、神の国の平和を作るために働く者とされるよう、共に祈りましょう。