








2022年8月14日(日) 聖霊降臨後第10主日
エレミヤ 23:23-29; ヘブライ 12:1-7, 11-14; ルカ 12:49-56
「あなたがたは、私が地上に平和をもたらすために来たと思うのか。そうではない。言っておくが、むしろ分裂だ。今から後、一家五人は、三人が二人と、二人が三人と対立して分かれることになる。53 父は子と、子は父と、母は娘と、娘は母と、しゅうとめは嫁と、嫁はしゅうとめと対立して分かれる。」(12:51-53)
キリスト教は家族を大切にする、家族主義的な信仰だと思っている人にとって、これらの言葉はとても衝撃的なものかもしれません。
しかし福音書の中には、家族主義的な要素を見出すことはできません。それどころか、イエス様の福音宣教の働きにとって、家族は最大の障害として描かれています。
イエス様が「時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて、福音を信じなさい」(マルコ 1:15)、そう宣言しながら病気を癒し、悪霊を追い出していたとき、イエス様の家族は、「あいつは気が狂っている」と言って、イエス様を取り押さえに来ました(マルコ 3:21)。
私たちは、マルコ福音書の6章とマタイ福音書の13章から、イエス様には母マリアと父ヨセフの他に、ヤコブ、ヨセ(フ)、ユダ、そしてシモンという最低4人の兄弟と、最低2人の姉妹がいたことを知っています。
しかし、神様がイエス様を十字架の死から甦らせ、教会が誕生した後も、そこにメンバーとして存在していたイエス様の家族は、母マリアと兄弟ヤコブだけでした。つまり、イエス様の家族は、イエス様を巡って分裂したままだったのです。
「一家五人は、三人が二人と、二人が三人と対立して分かれ」、「父は子と、子は父と、母は娘と、娘は母と、しゅうとめは嫁と、嫁はしゅうとめと対立して分かれる。」このイエス様の言葉は、イエス様と彼の血縁上の家族の現実を、そのまま表してもいるのです。
イエス様が群衆と共に、ある人の家に居たとき、母マリアと兄弟たちがイエス様と話をつけようと家の外にやって来ました。その時もイエス様は、外に出ていこうともせずに、自分の周りにいる群衆を見つめて、こう言い放ちました。
「ここに私の母、私のきょうだいがいる。神の御心を行う人は誰でも、私の兄弟、姉妹、また母なのだ。」(マルコ 3:35, 36)
イエス・キリストが宣べ伝えた「神の国」は、神ご自身が全ての人々をゲストとして招くパーティーであると同時に、この祝宴に招かれた人たちで構成される新しい家族です。血縁、血統、家柄は、神の国にとって最大の妨げと見做されているのですから、キリスト教が家族主義的な信仰でありえるはずはありません。
そして、血縁も、血統も、家柄もまったくモノを言わないというところに、キリスト教とユダヤ教との決定的な違いがあります。血縁、血統、家柄は、神の民としてのイスラエルの土台です。これを否定することはユダヤ教を否定することであり、ユダヤ人というアイデンティティーそのものを無価値とすることになります。
しかしイエス・キリストが宣べ伝えた神の国の民を生み出すのは、イエス・キリストの福音に対する応答です。血縁も、血統も、家柄も、応答する者のステータスに、一切影響を与えません。
先週の月曜日、8月8日に、7月の26日からAnglican Communionの主教たちが世界中から集まって行われていたランベス会議が閉会しました。
閉会礼拝として行われた聖餐式の説教の中で、カンタベリー大主教のジャスティン・ウェルビー (Justin Welby) は、自分の「出生」に関す「秘密」に触れました。
2016年に、The Daily Telegraphという新聞が、ジャスティン・ウェルビーの父親は、それまで父親だと思われていた人物ではなく、ウィンストン・チャーチルの最後の外交事務次官を務めた人物 (Anthony Montague Browne) だったというDNAテストの結果を公表したのです。
これを知らされたジャスティンは、大主教会議の事務総長に電話をし、自分はウィンストン・チャーチルの事務次官を務めた人物の非嫡出児であることが分かったと伝えます。それを聞いた事務総長は、新たな事実が何らかの法律上の問題となることがないか確認するために、Church of Englandの法律顧問に電話をします。
話を聞いた法律顧問は、「問題ないでしょう。何年か前に教会法を変更しているので。いや、確か、教会法の変更があったはずです。失礼、ちょっと調べてみます」と言って電話を切り、確認に走ります。彼は廊下を走りながら、こう思い巡らしたそうです。
「もし教会法が変更されていなかったとすると、ジャスティンは主教じゃないことになる。もし彼が主教じゃないとすると、彼が按手した司祭たちは皆、司祭じゃないことになる。ジャスティンに按手された人たちが司祭じゃなかったことになれば、彼らの司式によって結婚した夫婦は皆、夫婦ではないことになるじゃないか!」
実際には、Church of Englandは1952年に教会法の改正を行っていたそうですが、それ以前であれば、ジャスティンは「違法な子」として、カンタベリー大主教にはなれなかったわけです。自分が父親だと思っていた人物の子ではなく、チャーチルの事務次官の非嫡出児だということを知らされた時の気持ちを、ジャスティンはこう語っています。
「私を知っておられた神は、単なるDNAテストよりもはるかに深い、もっとも深いレベルで、私の本当のアイデンティティーを知っていてくださる。自分にとっても驚きでしたが、この揺らぐことのない確かなものを、私は自分自身の中に見出したのです。」
神の国の民にとって、教会にとって、血縁も、血統も、家柄も、DNA検査の結果も、モノの数に入らない。ジャスティンのエピソードは、そのことをよく物語っています。
神の国の到来を宣言したイエス様が、血縁による家族をアイデンティティーの中心に据えることを徹底的に拒否したのはなぜでしょうか。それは、血縁や血統や家柄が、この世では必ず、排除の論理として働くからです。
私の母が二度目の離婚をした後、母一人子一人の生活が始まって、いわゆる母子家庭となりました。その直後に、小学校1年のときのことですが、それまで兄弟のように仲良くしていたイトコの父から告げられた言葉を、私は今も鮮明に覚えています。
「父親がいないような危ない家の子どもと、うちの子を一緒に遊ばせるわけにはいかないんだよ。今後はうちの子に近づくな。」
日本のひとり親家庭とその子どもたちが置かれている状況は、今でも、先進国と呼ばれる国々の中で、最も劣悪です。
この国では7人に1人の子どもが貧困状態にありますが、ひとり親家庭の相対的貧困率は50.8%に跳ね上がります。これはG7、アメリカ、イタリア、イギリス、カナダ、ドイツ、フランス、日本の中で、最悪の数字です。
昨今、世界を股に掛ける日本最大の詐欺集団と自民党との相互依存関係が、マスコミを騒がせています。半世紀以上にわたって統一教会と自民党が共有してきた価値、それは反共産主義と伝統的家族主義です。
ひとり親家庭、特に母子家庭の子どもたちの貧困と苦しみは、この国の利益誘導利権政治の欠陥を告発していますが、欠陥政治を正当化するために決まって持ち出されるのは、伝統的家族主義です。
「子どもの面倒を見るのは親の役割だ。」そう一言言って、政治家たちはこれまで通り、自分の議席に直結する利害関係者への利益誘導に明け暮れます。
神の国を指し示す共同体となる使命を与えられた教会は、この使命を果たすために、「時を見定め」、福音を再発見し続けなくてはなりません。それは、最も福音を必要としている人を識別するということでもあります。
神が私たち聖マーガレット教会に、時を見定める知恵を与え、神の国の福音を必要とする人々のもとへ、私たちを遣わしてくださいますように。