聖霊降臨後第2主日 説教

6月11日(日)聖霊降臨後第2主日

ホセア 5:15-6:6; ローマ 4:13-18; マタイ 9:9-13

先週、9日の金曜日、入管法の「改正法案」が参議院本会議の場で強行採決され、成立しました。これまで、難民申請中の本国への強制送還はできませんでしたが、今回の「改正」によって、3回目以降は、難民申請中であっても強制送還ができるようになりました。

法律に何らかの変更を加える場合には、変更を必要とする根拠となる事実を確認する必要があります。それが「立法事実」と呼ばれます。

出入国在留管理庁が、今回の入管法「改正」にあたって根拠として掲げてきたのは、日本からの退去が確定したのに、出身国への送還を拒む「送還忌避者」が難民申請を繰り返しているということでした。

その根拠とされたのは、2021年4月21日の衆議院法務委員会で証言した、柳瀬房子(やなせ ふさこ)氏の証言でした。

彼女は111人いるとされる難民審査参与員の一人ですが、「参与員が、入管として見落としている難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができません」という発言をあちこちで繰り返し、政府も彼女の発言を繰り返し使ってきました。

柳瀬氏は、「(日本の)難民の認定率が低いというのは、分母である申請者の中に難民がほとんどいないということを、皆様、ぜひご理解下さい」とさえ言っています。

しかし、この柳瀬氏について大きな疑義が生じ、そして彼女の証言を根拠とする「律法事実」は完全に崩壊することになります。

柳瀬氏はこれまでに約4千件の審査を担当し、入管庁の資料によれば、2021年度に1378件、2022年度には1231件の審査を担当しています。これは、2年間に出された全難民申請の20%から25%を、彼女一人が扱っていたということです。

難民審査参与員は111人いて、全国難民弁護団連絡会議が、日本弁護士連合会の推薦で任命された難民審査参与員10人にアンケートを行ったところ、平均担当件数は、1年に36.3件です。2年間の平均は約75件です。柳瀬氏の1年平均1300件、2年で2600件以上というのは異常な数字です。

異常なのは件数だけではありません。柳瀬氏は今年4月に、ある新聞の取材に答えて、「難民認定すべきだとの意見書が出せたのは約4000件のうち6件にとどまる」と言っています。4000件中6件は、認定率0.15%です。

5月25日の参議院法務委員会の参考人質疑の中で、年1000件の審査を担当したことがあると発言をした浅川晃広(あきひろ)参与員はこうも断言しています。

「これまで(10年間)担当した約3900件のうち、難民と認める意見を書いたのは1件だけ。これまで、そこまで判断を迷ったことはない。」3900件の難民申請の内、1件だけが難民として認定された。認定率0.026%です。

難民申請者の出身国の情報は、難民認定にとってもっとも重要な情報の一つですが、浅川氏は入管庁から提供される出身国情報を見なくても、「申請者の個別事情だけで判断できる」とさえ言っています。

ちなみに、一般的には、年間30人が審査の限度だと言われていますから、年1,000件を超える柳瀬氏や浅川氏の「審査」が、まともな審査でないことは明らかです。

他方、2021年度、2022年度に計49件の審査をし、その内の34.7%、17件について難民認定や人道上配慮による在留特別許可を出すべきだとの意見書を出した伊藤敬史(たかし)弁護士は、2022年度後半から、割り振られる審査が半減します。

同じようなことが、中央大名誉教授の北村泰三(やすぞう)氏にも起きています。彼は月に4件の審査に関わり、年に2, 3件について難民認定すべきだという意見を述べてきたところ、昨年の秋から、審査の配分数が月4件から1件に大きく減らされました。

つまり入管庁は、難民認定率1%以下という異常に低い数字を維持して、日本に難民を入れないために、認定意見を出さない難民審査参与員に膨大な数の審査を委ねたり、3人1組の班に認定意見を出さない2人を必ず入れるといった操作をしているのです。

日本の難民認定率が低いのは申請者の中にほとんど難民がいないためだとする、政府の主張も、その根拠とされた柳瀬氏の主張も、まったくの茶番です。

柳瀬氏が極めて悪質なのは、彼女が「難民を助ける会(AAR)」の名誉会長で、1979年以来、この会の活動に関わっているという点です。

実は、この「難民を助ける会(AAR)」は、「日本国外の難民」を助けるための団体で、日本の難民を支援することもなければ、日本に難民受け入れを求めることさえありません。

つまり、柳瀬房子氏は、「難民を助ける会(AAR)」名誉会長の肩書きを掲げて、あたかも難民の味方であるかのような顔をしながら、実は日本国内に難民が増えないための防波堤の役割を積極的に担っているのです。

難民問題を通して見える日本の姿は、あたかもレイプされた女性に、自分がレイプされたという物的証拠を提示するように求め、それができない女性をレイプ犯の元に送り返す、極悪非道な悪徳警官のようです。

しかし、今朝の福音書朗読のイエス様は、難民問題に対して、この国の政府とも入管庁とも正反対の態度を取るようにと私たちに命じています。

イエス様が声をかけたマタイ、マタイの家でイエス様と共に食事の席に着いていたマタイの友人の徴税人や罪人たち。彼らはファリサイ派の人たちにとって、仲間に入れてはいけない「よそ者」であり、自分たちのルールに従って行動しない「ならず者」でした。

ファリサイ派に代表されるユダヤ人のメインストリームの人たちは、自分たちが作り上げたルールを疑うことを知りません。自分たちの作り上げたルールが、自分と同じように生きることのできない人たちを「ならず者」とし、「よそ者」としていることに気づいていません。

イエス様に言わせれば、それは自分たちの病気に気付いていないということです。

同じように、日本社会もますます自閉的になり、共通の利害によってしか、人と人とが結びつけないようになっています。

日本は、海外からやってくる難民申請者たちばかりではなく、ますます多くの日本人をも「ならず者」とし、「よそ者」として排斥する道を突き進んでいるのです。

しかしイエス・キリストは、「いつくしみ」によって、「身内」と「よそ者」の境界線を乗り越えて、共に食事をする者たちの輪を広げることによって、世界を癒し、平和を作り出す道を歩むようにと私たちを招いておられます。

私たち聖マーガレット教会が、イエス・キリストに癒やされ、国境を超え、民族を超え、「身内」と「よそ者」の境界線を乗り越えて、共に食事をする者の輪を広げる群れとして成長することができますように。