聖霊降臨後第4主日 説教

6月25日(日)聖霊降臨後第4主日(特定 7)

エレミヤ書 20:7-13; ローマ 5:15b-19; マタイ10:16-33

今朝はまず初めに、皆さんと一つの祈りを分かち合いたいと思います。

すでに多くの方々がご存じのことですが、聖マーガレット教会は、教会の様々な活動の様子を、InstagramというSNSのプラットフォーム上にタイムリーに発信しています。

そして実は、聖マーガレット教会はInstagramを通じて、Anglican Communionに属する世界中の教会と繋がっています。

Instagramでの繋がりは、単にSNSでフォローし合っているというだけではなくて、さらに深い関係に発展していく可能性を秘めています。

先週の水曜日、6月21日の早朝、Instagramのメッセンジャーを通じて、Edinburgh(エジンバラ)の St Mary’s Cathedral(聖マリア主教座聖堂)から、一通のメッセージが舞い込みました。冒頭にはこう書かれていました。

主の平和 we prayed for the diocese of Tokyo this morning as you were included in the Anglican Cycle of Prayer, which we use each day in our morning prayers.

「主の平和。私たちは今朝、東京教区のために祈りました。私たちが日毎に朝の礼拝で用いている聖公会の代祷表に、あなたたちが含まれていたからです。」

そして、この挨拶の後に、このような祈りが続いていました。

Deep peace of the running wave to you

Deep peace of the flowing air to you

Deep peace of the quiet earth to you

Deep peace of the shining stars to you

Deep peace of the gentle night to you

Moon and stars pour their healing light on you

Deep peace of Christ, the light of the world to you.

「海を駆ける波の深い平和があなたにありますように。流れる空気の深い平和があなたにありますように。静かな大地の深い平和があなたにありますように。輝く星たちの深い平和があなたにありますように。やさしい夜の深い平和があなたにありますように。月と星たちが癒しの光をあなたの上に注ぎますように。世の光、キリストの深い平和があなたにありますように。」

この祈りを読んだ瞬間、私の脳裏にはスコットランドの草原と空と海の光景が広がって、祈りの中で繰り返されている深い平和に、心が触れるのを感じました。

なんて美しい祈りなんだろうと思い、少し調べてみたところ、この祈りは ‘A Gaelic Blessing’ というJohn Rutterの作品だということがわかりました。

実はEdinburgh(エジンバラ)の St Mary’s Cathedral(聖マリア主教座聖堂)でインターネット広報を一手に引き受けているのは、Timothy Colemanという若手の音楽家で、music director でもあります。

遠く離れたスコットランドの地で、東京教区のことを覚えて祈り、Instagramで繋がっている私たち聖マーガレット教会のことを思い出して、わざわざ美しい祈りを送ってくれた St Mary’s Cathedral のことを、皆さんにも是非知らせたいと思い、ご紹介させていただきました。

さて、今朝、福音書朗読で読まれたマタイによる福音書10章16節から33節に描かれているのは、迫害に直面する教会の姿です。

迫害は時に、兄弟が兄弟を、父が子を、あるいは子が親を死刑にするために引き渡すほど苛烈なものでした。

紀元後の66年までは、迫害にあって捕らえられたクリスチャンの処遇は、17節で「地方法院」と訳されている、エルサレムの ‘συνέδριον’ で決定されていました。

‘Συνέδριον’ はイスラエル社会の最高決議機関と最高裁判所の機能を併せ持つ議会で、イエス様に対する死刑判決も、ここで下されました。ただし、 ‘συνέδριον’ が死刑判決を出したときには、ローマ総督による承認が必要でした。ピラトが出てくるのはそのためです。

‘Συνέδριον’ を構成するのは祭司長と70人の議員で、70人の内訳はサドカイ派の祭司、サドカイ派の貴族、そしてファリサイ派の律法学者たちでした。

福音書の中に現れるイエス様の敵対者と ‘συνέδριον’ の構成メンバーとは、そっくりそのまま重なっています。

紀元後70年にローマ軍によってエルサレム神殿が破壊された後には、 ‘συνέδριον’ も消滅します。

‘Συνέδριον’ 無き後、その機能を引き継いだのは、離散のユダヤ人社会で community centreとして存在していた会堂でした。

‘Συνέδριον’ を構成していた3つの派閥の内の2つ、祭司と、神殿を力の源泉とする貴族階級のサドカイ派も、神殿と共に歴史から姿を消し、ファリサイ派だけが残りました。その結果、必然的に、ファリサイ派が各都市に存在する会堂の支配勢力となりました。

教会は、ローマ帝国では非合法地下組織、離散のユダヤ人共同体の中では、会堂から排斥される超少数派であり、まさに狼に囲まれて生きているような存在だったわけです。

「狼たちの真っ只中の羊たちのように、私はあなたたちを送り出す。だから蛇たちのようにずる賢く、鳩たちのように純心でありなさい。」1世紀の教会は、イエス様のこの言葉に従って歩まなければ、生き残ることができない存在でした。

同じように、今、この国に置かれている私たち、聖マーガレット教会も、狼に囲まれ、いつ食い殺されてもおかしくない、超少数派のコミュニティーです。

増税に次ぐ増税で弱い者たちをさらに苦しめ、その金を大企業と富裕層への減税に充て、任意のはずのマイナンバーカードを強制するために保険証を廃止し、アメリカの言いなりになって47兆円もの防衛費増額を決める国は、どこへ向かっているのか。

私が聖マーガレット教会で勤務を始めた2017年の6月、時の安倍政権は共謀罪の法案を通しました。今のロシアで起きていることを見れば明らかなことですが、一旦戦時体制になれば、戦争に反対する者すべてが共謀罪で捕らえられることになります。

共謀罪の法案が可決された直後、特定7の主日、たまたま今日と同じ主日ですが、私は説教の中でこうお話をいたしました。

この政権は次に憲法を改正して自衛隊を軍隊として位置付けることを目指すだろう。その結果、自衛隊の志願者は減少し、国土防衛の危機に対応するためとして徴兵制が導入されることになるだろう。

残念ながら、私の予想を遥かに超えるスピードで、下り坂を転がっていくように、国はそこへ向かって突き進んでいます。

これまでも政府は、憲法改正のハードルを下げるために、戦時体制を演出しようと躍起でしたが、ウクライナでの戦争によって格好の機会が訪れました。

47兆円増の防衛予算によって、日本の軍事費は世界第3位の規模になります。日本は確実に、軍事大国化への道を突き進んでいます。

戦時体制が進む時、私たち教会は、真っ先に共謀罪のターゲットになることを覚悟していなくてはなりません。

戦時体制へ突き進む国にあっても、聖マーガレット教会が深い平和を生きる共同体であり続けるために、主が私たちに、ずる賢さと純心さとを与えてくださいますように。