聖霊降臨後第20主日 説教

10月15日(日)聖霊降臨後第20 主日

イザヤ 25:1-9; フィリピ 4:4-13; マタイ 22:1-14

ウクライナでの戦争、青空監獄 (blue-sky prison) と呼ばれるガザの地で、水も、食料も、電気も、医薬品も絶たれ、虐殺の危機に直面する110万のパレスティナ人の苦しみ。

現在、私たちの目の前で展開されている二つの巨悪は、ローマ帝国と一体化し、ローマ軍の力によって支えられ、反ユダヤ主義に蝕まれた教会が生み出したものです。

また、パレスティナのアラブ系住民の苦しみは、ほとんどすべて、私たちアングリカンがもたらしたものです。

第一次世界大戦でオスマン帝国を滅ぼした大英帝国は、パレスティナの新たな支配者となります。その前夜、19世紀の終わり頃には、ヨーロッパ全土に反ユダヤ主義の足音が響き始めます。4世紀以降の教会を蝕み続けてきた病が大発症したのです。

この病は、ユダヤ人の間で、新たな病を引き起こすことになりました。シオニズムです。

シオニズムの創始者、Theodor Herzlは、「ユダヤ人にとってヨーロッパの反ユダヤ主義を避ける唯一の道は、ただ(ヨーロッパを)去るだけではなく、自分たち自身の国を持つことだ」と主張しました。

Herzlによって提唱されたシオニズムは、ユダヤ教とは関係のない政治的運動でしたが、クリスチャン・シオニストが、そこに「神学的」意味合いを与えました。

「終わりの時」、キリストの再臨に先立って、イスラエルが再興されるという聖書解釈を初めて展開したのは、アイルランドのアングリカン司祭、John Nelson Darbyでした。この聖書解釈は、1909年にオックスフォード大学出版から出版された『Scofield引照付き聖書』によって、大英帝国、更には英語圏全体に伝染します。

アングリカンの司祭、William Henry Hechler は Theodor Herzl の友人であり、1897年にスイスのバーゼルで行われた第1回シオニスト会議に出席した、唯一の非ユダヤ人です。

そして、大英帝国の統治下に置かれたエルサレムのアングリカン教会は、ユダヤ人のパレスティナへの「帰還」を願う人たちによって始まりました。大英帝国もアングリカンの教会も、アラブ系パレスティナ住民のことなど、気にも留めませんでした。

教会を蝕む反ユダヤ主義が世俗的政治運動としてのシオニズムを生み出し、大英帝国はパレスティナに住むアラブ系住民の土地を奪ってユダヤ人に与え、アングリカンの教会は、シオニズムを宗教的イデオロギーへと昇華させました。

ヨーロッパに吹き荒れたホロコーストを逃れてパレスティナに押し寄せたユダヤ人たちは、自分たちの国を手に入れるために、アラブ系パレスティナ住民の家を破壊し、土地を奪います。

1948年4月9日、デイール・ヤシンというアラブ系住民の村が、シオニストに襲撃されます。250人の女性と子どもたちが、裸にされて並ばされ、写真を撮られ、マシンガンで銃殺されました。

同様の襲撃が、何十件と繰り返され、1948年5月15日にベン・グリオンがイスラエル建国を宣言するまでには、25万人のアラブ系住民が家と土地を奪われ、難民となりました(al-Nakba: catastrophe)。

イスラエルは現在に至るまで、アラブ系住民を追放し、土地を奪い、入植地を拡大する、アパルトヘイトと民族浄化を組み合わせた政策を押し進めています。

しかし、反ユダヤ主義が引き起こしたホロコーストという巨悪によって倫理的足場を失った西洋世界は、シオニスト国家がパレスティナ人に対して行っているあらゆる残虐行為に、見てみないふりを続けてきました。

ナザレのイエスが示された、善人にも悪人にも恵みを注いでくださる慈しみ深い神の姿も、復活のキリストを通して神が与えられた本当の平和を作る道も、「キリスト教国」の政治の中には見られません。

ところが先週末、キリストの平和の道を、まったく予想もしないところに見出すことになりました。それは、エルサレムの超正統派ユダヤ人コミュニティーの中にです。

このコミュニティーの指導者の一人、ラビ・イスラエル・ダビド・ヴァイスのメッセージをもって、私は今日の説教を閉じさせていただきます。

75年間に渡って続くこの占領について、私たちは世界に知ってほしいのです。

パレスティナの人々に対する仕打ち、抑圧、従属化、おぞましい残虐行為は、私たちの宗教の名によるものではありません。それはダビデの星の名によってでもなければ、ユダヤ人の宗教に忠実な、世界中のユダヤ人の名によってなされているのでもありません。

私たちはユダヤ人であるが故に、そして自分たちの宗教に対して忠実であるが故に、シオニスト国家イスラエルの存在に、絶対的に反対します。私は(イスラエル)をシオニスト国家と呼びます。なぜなら、それはユダヤ教に基づく国ではなく、シオニズムに基づいているからです。

トーラーにあるユダヤ教は、神殿崩壊以降、ユダヤ人に対して、自分たちが主権を持つことを、自分たちの国家を持つことを禁じています。トーラーに対して真実なユダヤ人は、自分たちの国を持とうと望んだことも、試みたこともありません。私たちは殺すことも、盗むことも禁じられています。

この土地をパレスティナの人々から奪おうという企みそのものが、私の宗教と、ユダヤ教と、まったく相入れず、むしろ対立しています。

ユダヤ人たちは、その初めから、このシオニスト国家に反対して立ち上がりました。私たちはユダヤ人として、これに反対し続けます。私たちはトーラーに忠実であるからこそ、立ち上がり、デモ行進します。私たちは泣き、苦しみ、パレスティナの人々の苦しみを感じます。

私たちは世界に知って欲しい。私たちはパレスチナの人たちと連帯し、苦しみの内にある彼らと共にいます。私たちは、占領が完全に終わることを望み、絶えず神に祈っています。

私たちは世界に知って欲しい。シオニスト運動はユダヤ教の運動ではありません。それは異端者によって作られた政治的、即物的運動です。彼らは、(イスラエルに)反対する人々を脅し、沈黙させ、そして反ユダヤ主義者と呼ぶために、私たちの宗教を取り込んだに過ぎないのです。しかし、それはまったくの偽りです。

反ユダヤ主義者がイスラエルを支持しているのです。シオニズムはこの占領によって、反ユダヤ主義を悪化させる原因です。

シオニズムは、パレスティナの人々の流血の原因であり、ユダヤ人についても同様です。シオニズムはパレスティナのイスラム教徒とクリスチャンの抑圧の原因であるばかりか、ユダヤ人の抑圧の原因でもあるのです。

パレスティナで立ち上がった何千何百というユダヤ人は、イスラエルという国が存在する前から、そこに住んでいました。彼らは今に至るまで、そこに住み続け、日々、デモ行進をし、残酷に打ち叩かれ、逮捕されています。

これらはすべてシオニズムです。ユダヤ教ではありません。

神が慈しみをもって、シオニスト国家イスラエルを速やかに取り去ってくださいますように。そして私たちが再び、共に、平和に暮らすことができるようになりますように。

ユダヤ人とアラブ人は、何百年にも渡って、そうしてきました。ユダヤ人たちは、アラブのイスラム教国に感謝してきました。それは、彼らがユダヤ人たちを受け入れ、ユダヤ人に故郷を与えてくれたからです。

神の御心によって、速やかに、私たちの時代に、(それが実現しますように)、アーメン。

私たちクリスチャンも、この世で主権を持つことを放棄し、キリスト教国家という幻想から解放されますように。

それによって、ナザレのイエスに倣い、互いに支え、敵のために祈り、平和を作る共同体となることができますように。