












12月10日(日)降臨節第2主日
イザヤ 40:1-11; IIペトロ 3:8-15a; マルコ 1:1-8
「洗礼者ヨハネが荒れ野に現れて、罪の赦しを得させるために悔い改めの洗礼を宣べ伝えた。」(4節)
私たちはこの場面にあまりにも慣れ過ぎていて、ほとんど何も感じずに、この1節を通り過ぎます。
そこで皆さんに想像していただきたいのですが、私が井の頭公園の池の前に立って、「罪の赦しのために、オレはお前たちをこの池に沈める!さあ、来い!」そう、叫んでいたとします。そうしたら皆さん、私のところに来て、「ぜひ、私も沈めてください!」と言われるでしょうか?
もちろんマルコ福音書の記述は、相当に誇張されています。エルサレムの全住民がヨハネから洗礼を受けたなんてことはあり得ません。
けれども、ヨハネの言葉を聞いて、洗礼を受けて彼の弟子となった人たちが少なからずいたことは、1世紀の後半になってもまだバプテストのヨハネの弟子たちが存在していたことからもわかります。
後に、ユダヤの領主であったヘロデ・アンティパスが、ヨハネを捕らえて投獄したことも、バプテスマのヨハネが民衆に対して影響力を持っていた証拠です。
「罪の赦しを受けるために洗礼を受けよ」というバプテスマのヨハネの宣言は、「主の日」の到来の宣言と結びついていました。
「主の日」というのは、神の怒りが発動されるときであり、神に逆らう者たちが火で焼き滅ぼされる時と考えられていました。
もっと具体的に言えば、ユダヤの人々は「主の日」が来れば、自分たちを支配するローマ帝国と、ローマ帝国の手先になって自分たちを痛めつけ、苦しめているユダヤ人の権力者たちが滅ぼされると期待していました。
神に逆らう者たちにとって大災害の日であり、滅びの日である「主の日」に、自分まで神の怒りにふれて滅ぼされることがないように。そう願って、人々はバプテスマのヨハネの呼びかけに応えて、洗礼を受けたのです。
バプテスマのヨハネの時代に「主の日」を待ち望んでいた人々の願いと、アメリカとイスラエルの滅びを願うパレスティナの人々の願いとは同じです。
バプテスマのヨハネの言葉に説得力があったのは、その時代の政治的現実が闇であり、多くの人々が闇の中で希望の光を探し求めていたからです。
イエス・キリストがこの時代に来られるなら、アメリカの帝国主義とシオニスト国家の闇の中に置かれたパレスティナの人々の中に降って来られるでしょう。
ここに、私たちがいつも目を背けようとする真実があります。それは、この世界の政治は、この世の統治体制は、常に、嘘と偽りの上に立っているということです。
この世の政治は本当のことを隠し、人を騙し、欺きます。それは、政治家個人が善意の人であっても、正義感があっても、避けることのできない現実です。この事実を否定しようとすればするほど、私たちはこの世の政治の闇に取り込まれ、闇を深くすることに貢献することになります。
12月3日、アメリカの下院議会は、反シオニズムと反ユダヤ主義を同一視する「決議894」を、賛成311、反対14、棄権92の圧倒的多数で可決しました。
先週も触れたように、世界中に、1948年に突如建国を宣言したシオニスト国家イスラエルに反対するユダヤ人がいます。
Noam Chomsky も、 Norman Finkelstein も、 Ilan Pappé も、 Miko Peled も、Jewish Voice for Peace のメンバーたちも、皆ユダヤ人です。
彼らはシオニズム国家イスラエルに反対しているのであって、ユダヤ人であることに反対しているわけではありません。
彼らがユダヤ人でありながら、シオニスト国家イスラエルに反対するのは、シオニズムが民族浄化とアパルトヘイトを正当化するユダヤ人至上主義のイデオロギーだからです。
アメリカと西洋諸国の政治家とメディアは、執拗にハマスの「テロリズム」を引き合いに出して、イスラエル軍によるパレスティナ人の虐殺を弁護しています。
しかし、ハマスが「テロリスト組織」であり、直ちに解体されなければならないとすれば、ハマスの10倍以上もの人を殺し、パレスティナの土地で略奪と破壊を繰り返し、違法な入植活動を続けるイスラエルは、ハマスの10倍、解体されるに値します。
先ほどの「決議894」は、パレスティナ人の国が存在する権利を否定しながら、イスラエル国家の存在権を主張しています。
この主張の根拠は、「ユダヤ人はパレスティナの先住民だからだ」ということになっています。しかし、これが「まともな議論だ」と思える人と共存することは不可能です。
それはこういうことです。ある時、家のインターホンが鳴って、玄関に出てみると、一人の男が立っていて、おもむろにこう話し始めます。
「先日、蔵で眠っている古い物を整理していたところ、先祖から受け継いできた巻物が何本か出てきました。鑑定士に依頼して解読してもらったところ、あなたの家が建っているこの土地も含めて、このあたり一体は、300年前、私たちの先祖の所有地だったことがわかりました。ですから1週間以内にこの家から出て行ってください。」
そう言い残して男は去っていきます。おかしな奴が来たもんだと思ってやり過ごしていると、1週間後、大きな騒音と共に家中が大きく揺れ始めます。例の男性が、ブルドーザーで家を破壊し始めたのです。
大慌てで出て行って、「やめろ、一体何をしてるんだ!」とあなたが叫ぶと、その男はあなたに銃を向けて、こう言い放ちます。
「300年前に先祖が住んでいたこの土地は、俺の土地だ。この場で死ぬか、大人しく出ていくか、どちらかを選べ。」
皆さんは、そんなことが実際に起きたら、ただ黙って家を出ていきますか?
私は今でこそ Christian Pacifist 、暴力によって平和を作ることを放棄したクリスチャンですが、もともとはボクシングで食っていこうとしていた、極めて闘争的な人間です。
もし私がシオニスト国家によって家を奪われ、土地も略奪され、難民として逃れて行ったガザでまで、自分から全てを奪った人間による陰湿で過酷ないじめと監視の中で生きることになったとしたら、自分も絶対に、ハマスに加わると思います。
ついでにもう一つ付け加えておきますと、アメリカは長きにわたって、南アフリカのアパルトヘイト体制を擁護し、アパルトヘイト政権に反対する抵抗運動を「テロリズム」として非難してきました。
1961年にアパルトヘイト政権がANC(アフリカ民族会議)を違法組織に認定し、解体を命じたとき、ネルソン・マンデラは地下に潜って抵抗運動を組織します。
このネルソン・マンデラを、アメリカは2008年に至るまでテロリスト監視リストに加えていました。ちなみに、マンデラはパレスティナ解放運動の支持者でした。
アメリカでも西洋諸国でも、市民の圧倒的な声を無視して、与党の政治家も野党の政治家も、シオニスト国家を擁護していのは、AIPACをはじめとするイスラエル・ロビー団体が、政治家を金で取り込んでいるからです。
私たちは今、パレスティナの人々の犠牲を通して、これまで目を背けてきた、この世の政治の闇を見ています。
日本と西洋諸国を属国とするアメリカは、世界でもっとも危険な存在です。なぜなら、アメリカの帝国主義は、世界最大の嘘と偽りと隠蔽の上に立っているからです。
イエス・キリストがその中に降ってきて照らす闇とは、嘘と偽りと隠蔽の上に立つこの世の政治の闇です。
重要なことは、闇を認めることです。私たち自身の闇を認め、私たちの闇に寄生する、この世の政治の闇に気づき、警戒することです。
私たち自身の闇と、その闇に寄生するこの世の政治の闇に気づかなければ、私たちは闇に飲み込まれて、その闇を深めることに貢献するだけです。
この世の政治の闇に飲み込まれた教会は、キリストの名によって人を殺すことも、ミサイルや戦車や核弾頭を祝福することも問題ないと思うようになります。
そして、その闇が多くの人々の命を奪い始めても、神がそれを許されると言うようになります。
西洋世界の教会が、シオニスト国家のありとあらゆる残虐行為に対して、一言も批判の声を上げられず、パレスティナの人々の虐殺を黙認しているのは、教会がこの世の政治の闇に取り込まれたからです。
とてつもなく深い政治的闇の中で降臨節を迎えたこの年、世に降ってこられたまことの光、イエス・キリストが、私たち自身の闇を照らし、私たちの闇に寄生する、この世の政治の闇に気づかせてくださいますように。
