聖霊降臨後第11主日 説教

聖霊降臨後第11主日(特定13主日)

2024年8月4日

出エジプト 16:2-4,9-15; エフェソ 4:1-16; ヨハネ 6:24-35

先週の日曜日、特定12主日から8月25日の特定16主日まで、ヨハネ福音書の6章から福音書朗読が取られています。

 6章は71節まであるとても長い章で、その全体を「命のパンなるイエス」というトピックが貫いています。

 先週、特定12主日には、1節から21節までの「五千人の給食」の物語が読まれました。先週もお話ししたように、「五千人の給食」の話は、マタイ、マルコ、ルカの福音書、共観福音書のすべてにも出てきます。

しかしヨハネ福音書の著者、あるいは編集者は、「五千人の給食」の物語を、「命のパンであるイエス」というテーマへの導入として使っています。ちなみに、「命のパンなるイエス」というテーマはヨハネ福音書にしかありません。

 今日の物語の中でイエス様の後を追ってカファルナウムまでやって来た人々は、5千人の給食の場面で、パンと魚を満ち足りるまで食べさせてもらった人々の一部です。

 共観福音書の群衆は、イエス様が憐れみ、養う人々です。マルコ福音書では、イエス様は自分の周りに集まる人々のことを「私の兄弟、姉妹、また母」、つまり家族と呼んでいます。

 それに対してヨハネ福音書の群衆は、自分の物質的必要にしか関心のない、不信仰で神の御心を理解しない者たちとして描かれています。

 ヨハネ福音書の編集者は、イエス様が5つのパンと2匹の魚で5千人の人々を養う奇跡を見ておきながら、「それでは、私たちが見てあなたを信じることができるように、どんなしるしを行ってくださいますか。どのようなことをしてくださいますか」と言う人々を、イエス様をメシアとして受け入れなかった主流派のユダヤ人と重ねて見ています。

 その上で編集者は、この福音書の物語を聞く者たちが、イエス様を退けた主流派ユダヤ人のようにならずに、むしろイエス様を信じて命を得るようにと説得しようとしているのです。

 今朝の福音書朗読の箇所が、「この世のことに、死すべき体の欲求を満たすことに心を奪われるな。イエス様を信じて命を得よ」、そう言っていることは容易にわかります。

 確かに、私たちが「自分の腹」のことだけを考えるようになれば、体の欲求にだけ囚われるようになれば、私たちは人の仮面を被った野獣に成り下がります。

 この世でパンを得ることにしか関心が無くなった人間は、他の人がパンを得られなくても平気になります。

 私たちは今そのために、第三次世界大戦の危機に直面しているのです。

7月28日にベネズエラで大統領選挙が行われ、マドゥロ大統領が再選を果たしました。ところが、アメリカは「選挙結果に疑義がある」と言って、選挙結果を認めることを拒否しました。  それどころかアメリカは、CIAの資金援助を受ける対立候補のゴンザレスを、得票率が10%も下回るにも関わらず、大統領として承認することを画策しています。

 実はアメリカは、2016年にも同じことをしているんですが、なぜアメリカは、他国の選挙結果に口を挟もうとしているのでしょうか?

 もちろんアメリカは、世界の国々で「公正な選挙」が行われているかどうかに関心があるわけではありません。答えは極めて簡単です。

ベネズエラは中南米最大の石油埋蔵国なんですが、マドゥロ大統領は、石油権益をアメリカ企業に与えることを拒否しています。アメリカは、マドゥロ大統領に代わって、石油権益をアメリカに手放す傀儡政権を樹立することを模索しているんです。

 この話が嘘だと思われたなら、なぜ、天然資源に恵まれた中南米やアフリカの国々の人々が、今も貧困に喘いているのかを考えてみてください。なぜ豊かな国の人々が、豊かに生きられないのでしょうか?

 それはアメリカとその同盟国が富を収奪できるように、世界経済と世界政治が出来上がっているからです。

中南米やアフリカの民衆が貧しいのは、独裁政権のせいだという人がいます。では、中南米やアフリカの国々の人々は、独裁者が好きだから、独裁政権が生まれ、それが続くのでしょうか。

 もちろん違います。独裁者はアメリカが育てて、支援しているんです。

諸外国、特に資源産出国で、アメリカ企業に権益を与えることを拒否する候補者が当選すると、アメリカはCIAを通じてその国のギャングたちに資金と武器を提供し、反政府組織を作ります。そしてアメリカの息のかかった反政府組織がクーデターを起こして、政権を転覆させます。

 反政府組織を使った政権転覆の試みがうまくいかない時には、経済制裁を発動してその国を孤立化し、貧困に陥れ、その上でCIAの支援を受ける対立候補者を立てて、傀儡政権の樹立を図ります。

 それでもうまくいかない時には、「社会主義国家」、「テロ国家」として、アメリカとその同盟国の軍隊が、直接介入して政権を転覆させます。世界中に1,000もの米軍基地があるのはこのためです。

 こうして、豊かなはずの国々で、独裁体制が生まれ、民衆は貧困状態に置かれ、アメリカがそれを維持します。

 しかし独裁者がアメリカの意向に従わなくなれば、あっという間に排除されます。それはイラクのフセイン、リビアのカダフィに起きたことです。

 1952年以降、中南米だけでも、メキシコ、コロンビア、キューバ、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、パナマ、ハイチ、ペルー、ドミニカ、ヴェネズエラ、ボリビア、パラグアイ、ブラジル、チリ、アルゼンチン、ウルグアイで政権転覆が行われてきました。

 日本でも実質的な一党独裁体制が続いているのは、日本がアメリカの傀儡だからです。

 このように、アメリカは自国の経済的利益を保証する体制を維持するために、世界中で政権転覆と傀儡政権の樹立を繰り返してしています。世界最大のテロリスト国家はアメリカです。

 こうして今や、自分の腹を満たし、自分の欲望を満たすことにしか関心のない政治家と経済人によって、中東を震源地とする第三次世界大戦の嵐の中に、世界が巻き込まれようとしています。

 道徳的羅針盤が完全に壊れた世界に沈んでいくことを避けるためには、ヨハネ福音書の編纂者が警告するように、身体に根ざす欲望を満たすことだけではなく、憐れみの心を持って隣人と共に生きていくための、「霊的食物」に目を向ける必要があります。

 かと言って、私たちはヨハネの福音書の「福音」だけでも生きてはいけません。

 私たちがイエス様の弟子として、彼に従って忠実に歩んだとしても、お腹が空かなくなるわけではありません。喉だって渇きます。

 イエス様を信じたって、食べなければ餓死します。水を飲まなければ、熱中症にも脱水症状にもなります。

 身体性を無視して、霊的なことだけを語ることは、宴会好きのイエス様が語った、神の国のこの世的次元を忘れることになります。

 ですから、この世の悲劇から目を背けて、霊的世界に逃避することは、ナザレのイエスに従って生きることにはなりません。

 だからこそ私たちは、神と人と世界とを一つに結び合わせておかなくてはならないんです。

私たちと神との関係は、神が造られたこの世界で、他の人々と、どのように生きるかということに繋がっています。そして、私たちのこの世での生き方が変わり、他の人々との関わり方が変わる時、世界が変わり、天地創造の業の完成形が変わります。

 だからこそ、私たちは祈り続けるんです。天におけるように、地においても神の御心が行われるようにと。

 ナザレのイエスに倣うことを通して、私たちも神の御心をこの世で成す者とされますように。