















11月10日 聖霊降臨後第25主日
列王記上17:8-16; ヘブライ9:24-28; マルコ12:38-44
今朝の福音書朗読は、短い箇所ですが、2つの部分から成っています。その2つはどちらも、「あるカテゴリー」の人々について、イエス様が語っているという作りになっています。
前半の38節から40節では、イエス様が律法学者を偽善者として激しく非難しています。
後半の41節から44節ではまず、一人のやもめが、神殿の献金箱にレプトン銀貨2枚を投げ入れる場面が描かれ、それについてイエス様がコメントをしています。
今日の説教の中では、この後半のエピソードに焦点を当ててお話をいたします。
イエス様が宣教活動をしていた時、ユダヤ人社会の中心にあったのは、今日のエピソードにも登場するエルサレムの神殿です。
神殿は、政治と経済と宗教と文化の中心です。そして、神殿こそが、金と権力と特権との源泉でした。
イエス様が目にしていた荘厳なエルサレム神殿は、ヘロデ大王によって大拡張工事が始められ、イエス様の時代にも延々とその工事は続いていました。
そして、この荘厳な神殿は、世界中に離散するユダヤ人から富を収奪する集金装置となり、神殿貴族を支えていました。
エルサレム神殿は、私たちが思い浮かべるような、単なる宗教施設とか、お祈りの場所などではありません。それは金と特権と権力の源泉でした。
そしてイエス様は、神殿経済の中心にはマモンが、拝金主義があることを見抜いていました。
イエス様は神殿に寄生する貴族、学者、商売人、宗教権威者を批判し、神殿中心体制そのものを、容赦なく非難しました。
宗教的立場も政治的立場も異なり、普段は対立しているユダヤ人グループが、ナザレのイエスを亡き者にするために協力したのは、神殿によって支えられている利権、特権、ステータスが脅かされたからです。
42節に登場する「貧しいやもめ」は、神殿体制によって搾取され、貧しくされ、生きる術のないすべての人々を代表しています。
やもめが献金箱に投げ入れた2枚のレプトン銅貨、1クァドランスは、1デナリオンの64分の1です。1デナリオンは一日分の労働賃金で、日雇労働者とその家族が、一日食い繋ぐために必要な金額です。
やもめの手元には、その64分の1しかなかったんです。1クァドランスでは、パン1つすら買えなかったことでしょう。
そして、この1クァドランスは、神殿利権に寄生する人間たちが、彼女の命に付けた値段です。
「よく言っておく。この貧しいやもめは、献金箱に入れている人の中で、誰よりもたくさん入れた。44 皆は有り余る中から入れたが、この人は、乏しい中から持っている物をすべて、生活費を全部入れたからである。」(43, 44)
この言葉は、教会の歴史の中で、やもめの行動に対するイエス様の賞賛として読まれてきました。
クリュソストムスも、ヒエロニムスも、アウグスティヌスも、その後に続くほとんどすべての説教者たちが、そう解釈してきました。
そして私自身も、長い間、「すべてを神に献げた貧しいやもめを、イエス様が褒めておられるんだ」と思ってきました。
しかし、イエス様が何を語り、何をし、何を目指していたのか、前よりも少しだけよくわかるようになった今は、その読み方は間違っていると思います。
43節と44節のイエス様の言葉はむしろ、神殿体制に対する風刺であり、嫌味であり、皮肉であり、神殿中心体制の宗教的欺瞞を暴くものです。
神殿を拠点に商売をし、大儲けをする商売人たちは、利益の中からわずかを、「神への従順」のしるしとして捧げます。
神殿貴族は、その金で贅沢な暮らしを享受し、商売人たちに神殿境内で商売をする特権を保証します。
学者たちは、体制を擁護することによって、自分の利権を確保します。
イエス様は、神殿利権体制によって、生きることすらできなくされた一人のやもめを憐れみ、民衆からの搾取と収奪によって贅沢に暮らす人間たちを批判し、神殿中心体制そのものを退けました。
実は、イエス様が批判し、非難し、退けた「神殿中心体制」は、私たちの世界の政治的現実と、非常によく似ています。
先週のアメリカ大統領選挙と議会選挙で、民主党は大敗し、トランプが次期大統領となりました。
上院では46/53 (99)、下院では200/212 (412)で、上院下院共に、共和党が過半数を獲得しました。
しかし、この選挙の本当の勝者は共和党ではなく、アメリ最大のイスラエル・ロビー団体、AIPACです。
上院下院議員合わせて511人の内、318人を、AIPACの支援を受けた議員が占めています。そしてAIPACの支援と資金援助受ける議員は、民主党・共和党双方に、幅広くいます。
つまり、イスラエルがアメリカ議会を所有しているんです。これは大袈裟な話ではありません。
AIPACは今回の大統領選挙とアメリカ議会選挙にあたって、「親イスラエル」候補者に、1億ドル(152億6千550万円)の資金援助をして、318人を当選させました。物凄い莫大な金額だと思われるかもしれませんが、アメリカ議会を「買う」費用としては、極めて安いんです。
昨年の10月8日以降、イスラエルはアメリカから、179億ドル (2兆7,325万円) を超える資金援助を引き出しました。要は、イスラエルがアメリカから、1ドルで179ドルを買っているのと同じです。
イエス様の時代の神殿利権体制と、非常によく似ています。
主要メディアではまったく取り上げられませんが、カマラ・ハリスが大差でドナルド・トランプに敗れたのは、バイデン・ハリス民主党政権が、イスラエルと共に、虐殺を実行してきたからです。
アメリカのイスラム教指導者たちは、虐殺の当事者であるバイデン・ハリス民主党政権に罰を下さねばならないと言って、民主党に投票しないようムスリムたちに呼びかけました。
さらに、従来の民主党支持者の多くは、ハリスになってもトランプになってもアメリカ政治のシオニスト体制が変わらないことを見て、投票そのものを拒否しました。
その結果、大統領選挙も議会選挙も、民主党の大敗となりました。
そして、トランプ再選の背後には、福音派クリスチャンの、クリスチャン・シオニストの支持があることは、指摘するまでもないことでしょう。
西洋世界の喜劇的にして悲劇的政治状況は、教会の神殿化が残した負の遺産です。
ナザレのイエスはいつも抑圧される者たちの側にいるのに、教会は抑圧者の側に立ち、帝国主義と結びつき、植民地主義を支え、ホロコーストを引き起こし、そして今は、パレスティナの虐殺を支えています。
パレスティナ人のこれほどの悲劇を見ても、神殿化した教会から、イスラエルを非難する言葉は上がりません。
英国Faith Serveyの統計によれば、イングランド聖公会は2033年に消滅すると予測されていますが、ガザの虐殺に対する沈黙によって、教会の衰退がさらに加速したことは間違いないと私は見ています。
私たち日本の教会にとって、今という時は、単なる西洋教会の模倣を脱して、Jesus Movementの共同体として、新しいあり方を見出すべき時ではないでしょうか。
かつてのキリスト教国を飾る荘厳な大聖堂も、きらびやかな祭服も、金や銀に輝くチャリスもパテンも、イエス様が否定した「神殿中心体制」が、教会の中で復活したことを証ししてはいないでしょうか。
願わくは聖霊の息吹が、ナザレのイエスが退けた、神殿化の罠から、私たちを解放し、神の国の共同体として新たにしてくださいますように。
