顕現後第1主日 説教

1月12日(日)顕現後第1主日

イザヤ43:1-7; 使徒8:14-17; ルカ3:15-17,21-22

 今朝の福音書朗読の物語の中には、2人の登場人物がいます。バプテスマのヨハネとナザレのイエスです。

 この二人は、ほぼ同じ時代と、同じ場所に生き、活動しました。

 バプテスマのヨハネもイエス様も、ヘロデ大王がユダヤを治めている時に生まれました。

 ユダヤ人エリートたちはローマへの従属を受け入れ、民衆を犠牲にして特権と贅沢な暮らしを享受している。そんな支配体制に人々は絶望し、崩壊を待ち望んでいる。

 イエス様とバプテスマのヨハネが活動したのは、そのような「終末の時代」でした。

 しかしバプテスマのヨハネとイエス様は、同じ時代、同じ場所で、民衆を犠牲にする不正な体制の向こう側に、異なる「未来像」を描きました。

 バプテスマのヨハネは、人々が不正な支配者を受け入れ、自分も不正に加担して甘い汁を吸おうとすることで、不正な体制を永続化していると考えていました。

 ですから彼は、すべての人に、「悔い改め」を迫りました。それは、不正な支配者に加担するのを止めろという訴えです。

 人々が不正な支配者に加担するのを止めた時、神は支配者たちに裁きを下し、滅ぼしてくださる。そして新たな時代が、新たな世界が訪れる。バプテスマのヨハネは、そう思っていました。

 イエス様も、このヨハネの教えに共感し、彼から洗礼を受けて、ヨハネ教団のメンバーとして活動しました。

 富の独占と特権維持は、この世の支配体制に内在する悪であり、支配エリートを冒す不治の病です。

 政治体制に、どんな名前を付けても、それは変わりません。「民主主義」という看板も、政治体制を不正義から救うことはできません。

 アメリカを筆頭に、世界中の「民主主義」と言われる国々で、独裁的人間が首相や大統領となり、ごく一部のエリートだけが政治決定をする、実質的な寡頭制が普遍化しています。

 ガザのジェノサイドが止まらないのは、西洋の民主主義国と言われる国々でも、支配エリートの政治的決断に対して、国民はほとんど影響力がないからです。

 イギリスに本部を置くチャリティー団体のOxfamは、2018年に、超富裕層の1%が世界の富の86%を所有しており、これが加速しているとことを報告しました。それは今もまったく変わっていません。

 しかし、搾取と抑圧の上に立つ支配体制は、必ず内部から崩壊します。

 先週、今の世界の終わりを示す、最も終末論的なしるしが私たちの前に現れました。ロサンゼルスを襲った、アメリカ史上もっとも壊滅的な火災です。

 この大火災によって、アメリカの最も裕福な人間たち、セレブたちが居を構える Pacific Palisades と呼ばれる地域が全滅しました。

 世界経済は、気候変動の研究者たちの警告を無視し続け、目先の利益を優先し続けてきました。

 しかも悪いことに、世界的な気温上昇は研究者たちの予測を超えて加速を続け、昨年、2024年の夏は、1880年以降で、最も暑い年となりました。

 夏の異常な暑さによって森林の乾燥が進み、自然発生した火事が燃え広がりやすくなっているところに、猛烈な風が加わり、ロサンゼルスの火災は、壊滅的なものとなりました。

 アメリカの富の象徴とも言える地域を襲った大火災の映像は、文字通り ‘apocalyptic’ 、この世の終わりを思わせるようなものでした。

 それは私たちに、これまで通りの世界経済も世界秩序も維持不能であることを語っています。

 全世界が、避けることのできない危機に直面しています。私たちの生き方が、政治が、経済が変わらなければ、破滅がやって来ます。

 イエス様もヨハネと同じように、支配エリートの中に、人々の命を犠牲にして特権を維持し、富を独占しようとする悪を見ていました。

 しかしイエス様は、人々が不正に加担しないというだけでは、世界は変わらないことに気づきました。

 そしてイエス様は、ヨハネの元を去って、まったく新しい「神の国」の運動を開始しました。

 イエス様は、神の国を到来させることは、神様と人間との共同の働きであると信じていました。

 イエス様は、私たちが、自分に与えられた恵みと祝福を捧げて、大宴会を開くために働くところに、神の国が現れると言いました。

 神の国は、血縁も、家柄も、社会的ステータスも、経済力も、まったく違う人たちが共に招かれて食事をし、語り合い、歌って、踊って、心から喜び楽しむ大パーティーです。

 このパーティーに参加する唯一の条件は、全参加者が食事の準備も、給仕もすることです。そこに神様ご自身の願う世界が、神の国が現れます。

 しかし世界を「神の国の完成」へ向けて動かしていく働きは、イエス様によって終わったのではありません。

 神様は、十字架の上で殺されたナザレのイエスを死から甦らせ、弟子たちの前に現されることによって、ご自分がつくられた世界を、大パーティーの喜びに向けて動かしておられることを示されたんです。

 それは、天地創造の業が完成したとき、世を去った者たちと、今世に残る私たちと、私たちの後にこの世で生きるすべての者たちが、神の国の祝宴の喜びに満たされるという神様の約束です。

 だからこそ私たちは、神様と共に、神の国を作り上げる働きを、自分たちが置かれた所で、今、ここで続けることができるんです。

 人が支配欲と独占欲から解放され、パーティーの食事を作り、食卓を整え、互いに給仕として働く者となるとき、神の国は成長し、世界が変わります。

 神様が、今日ここに集う私たち一人一人を、痛み苦しむ世界を癒し、神の国を成長させるために用いてくださいますように。